八月の鯨に足を運ぶ私はミーハー女子大生だ。
八月の鯨。
喧騒な渋谷センター街の奥にひっそりと佇むバーである。
このバーで有名なのは映画にちなんだオリジナルカクテル。どうだろう、いかにもミーハー女子大生が好きそうな場所だ。映画に詳しいわけではないがある程度は知っていて、けれども映画について饒舌に語られると引く、それがミーハー。そんな映画がすんんんんんんごく好きでもない彼らがこのバーに足を運ぶ理由はそう、
フォトジェニックだからである。
最近SNSの発達も相まって「フォトジェニッhウェイウfくぅっf」という言葉を使えば何でもまかり通るような風潮があり、女子大生はずっとパシャパシャパシャパシャしている。どこにいってもパシャパシャパシャパシャしているのだ。そんな彼女たちの動向を伺っている私は『女子大生、上から見るか?横から見るか?』である。
「写真撮ってインスタにでもあげるつもりだろお前ら」と心底見下したような顔をしながら店内で写真を撮りまくる女子大生を横目にする私がそこにはいた。なんて醜い心を持った人間なんだ。そう自分自身に落胆したあの時の私は、自分とは違う他者に歩み寄る気持ちを忘れていたに違いない。
今こそ歩み寄るときなのではないか。自分が今まで持ち合わせていた偏見延いては自分の殻を破るときなのではないか。
私はおもむろにスマートフォンをカバンから取り出し、起動させ、カメラを開く。そして対象であるカクテルに焦点を合わせる。角度はこれでいいのだろうか、フラッシュは必要だろうか、す…スクエア?スクエアにするべきなのか、など瞬時に様々なことが過ぎる。
私が今まで見下していた女子大生は瞬時にこれらの情報を処理していたというのか。
ちなみに出来上がった写真がこちらである。
角度的には気に入っているのだが、おしぼりが致命的なミスだ。くそ…、女子大生だったらこのおしぼりをこんな風に可愛くして写真を撮るのだろう。
見える範囲(顔面を含む)はとことん可愛くし、閲覧者を楽しませようとするエンターテイナーの心が彼女たちにはある。私にはどうやらそれが欠けていたようだ。
結論、私は自分が今まで見下していた写真を撮りまくる女子大生に敗北した。私はやはりおしぼりの存在に負けてしまい、とてもじゃないが可愛くも美味しそうにも写真を撮ることができない。おしぼりとの決闘はこの先も続いていくのだろう。
ちなみに今回の写真に写っているカクテルは、塔の上のラプンツェルというもの。いかにも女子大生の王道みたいな映画のカクテルを選んでしまった。グレープフルーツの皮でラプンツェルの長い髪を表現しており、味は桃ジュースとカルピスを合わせたような味で美味しかった。
今度足を運んだ際には、自分のお気に入りの映画であるSIng Streetのカクテルでも頼もう。なかなか豪華。